宵闇にぶら下がった提灯があかかった。
 
 気泡越しの夏 

人、人、人。
人がゴミのようだ、なんてものじゃない。人がゴミだ。
日も落ちたというのにベタつく暑さが拭えない。
駅前で配っていた団扇で仰ぐ。温い風でも無いよりマシというものだろう。
どの道不快指数マックスだ。
せっかくの夏休み。家でぐだってるに限るだろ。
だというのに、
「なーにが悲しくてお前らと祭なんだよ。」
「そりゃ俺がいいてぇよ！」
「まぁ、偶にはいんじゃないか？懐かしいし。」
姉に強制的に着付けられた深草色の浴衣で赴いた祭会場となっている神社。
メールで伝えられた通り喧騒から離れた地元の奴しか知らないであろう社へ行けば既に待ち人はいた。
その二人も浴衣姿だ。自分でやれるだろうに、やつらも姉の犠牲になったのだろう。
因みにやつらは姉貴に用事を押し付けられた俺を置いて先に行っていた。
といっても誰も彼もそこまで積極的に参加したいわけではないだろうからどうせ今来たところだろう。
 
性格もなにも違う唯の腐れ縁だが人混みに突っ込んでいくタチではない、という部分で共通している俺らがなんでこんなとこにいるかというと、理由はバラバラで、三人仲良くの原因は俺の姉だ。
俺は祭があるせいで飯はそこで食えと追い出され、レイズは彼女と行く予定(リア充滅べ爆発しろ)だったが、彼女の父が交通事故に遭ったため断念(ざまぁ)そのまま家で引きこもっていようとしたのにその彼女から『レイズだけでも！楽しんできて！』なんて言われたからだし(そのへんでくたばっとけ)、クロノに至っては、風邪を引いた弟に土産を買っていくとか(看病は弟の幼馴染が来てるとかそれなんてエロゲ)なんとも奴らしい俺らには真似できない殊勝な理由だったりする。
そんなこんなで三者三様に祭に行くことになった俺らだが、俺は行く気なんてなかった。晩飯代はファミレスに消えるはずだった。なのに「なら一緒に行けばいいじゃない。」と我が姉に捕まり、あれよあれよと言う間に浴衣まで用意され、今に至る。
いくら餓鬼の頃(今もガキだという突っ込みはナシだ。)から知っているからといって思春期の男を剥くもんじゃねぇぞ。我が姉よ。
ともかく斯くして俺らは祭に来た。
三人の家から近いこの神社は無駄に広く出店が多く立ち並び、仮設のお化け屋敷まであるくらいだ。そこそこ由緒もあるようでこの過疎地にはるばると来る人も多い。人口密度が半端無い。
正直、もう帰りたい。
けれど腹も減った。
だが、ファミレスへ行こうにもこの姿は終わりがけならまだしもこの時間はこの空間以外だと浮く。
あのくそあまめ。

そんな思いが顔に出ていたのか(まあそりゃそうだろう)クロノが苦笑を浮かべ、焼きそばを渡してきた。
やはり合流する前に少しは歩いたらしい。
若干ぱさつく麺を咀嚼する。体に悪そうなソースの濃い味は偶に食べる分には悪くない。が、悲しいかな、成長期男子の腹はそんなもんじゃ満たされない。

「もう帰りたい。」

そう零したのは俺ではなく、俺が食っている横で木に凭れ掛かっているレイズだ。顔色を見る限り疲労感しかない。
どうやら既に人酔いしたらしい。もしかしたら俺の居ぬ間に食べたもので胸焼けしてる可能性もあるが。
お前彼女と行く予定だったんじゃなかったのか。そんなんで行く気だったのか。これだからリア充は。
「それには賛同するが、こんなんじゃ足りねぇし、せっかく姉貴から金貰ったし食うぞ俺は。というかお前らもたいして見てねぇだろ、食ったのか？」
空になったプラスチック容器をとっくに飽和状態のゴミ箱に押し込んで訊ねれば、クロノはノーと首を振る。
「お前の言った通り、俺らもさっき来たとこだしな。まぁレイズは食ったというか……、今のやつレイズの残りだ。」
「はぁ？」
「安心しろ。箸は三膳貰ってたから。」
「いや、それはまぁ、そうじゃなくて、十割残ってたぞ？」
なんか色々通り越して呆れた声で問えば、
「紅生姜はくった。」
と返された。それ食って胸焼けしたろ、お前。
 
阿呆だ阿呆だといい続けていたら拗ねたレイズを宥め、からころと人の間を縫うように歩いていく。

じゃがバターとたこ焼きとフランクフルトを腹に収めれば空腹もひとまず収まる。
途中巨大なりんご飴を買おうとしたレイズを諌める(どうせ奴は飴しか食わん)。クロノは土産に綿菓子を買えないのを残念がり(とけるから)、代わりに金魚すくいで普通の金魚と出目金を一匹ずつとっていった。大男が金魚の入った小さな袋をぶら下げている図は結構シュールだ。
 
「お、射的か。」
 
そろそろ反対側に出る、となったとき目に入ったのはよくある射的。多分道中にもいくつかあったはずだが、立ち止まるのを最低限にしたかった俺らは食べ物屋(と、金魚すくい)以外眼中にすらなかったので気づかなかったのだろう。それに目に留まった理由はもうひとつ。
 
｢これ、来月発売のゲームじゃね。おっさん何したんだよ。｣
 
買おうと思ってたゲームが並べられていたからに他ならない。
 
｢おっちゃんをなめんなよ？まぁ、ちょっとしたコネさ。｣
どや顔で行ってくる親父が無性に腹立ったが気にしない。俺には必勝方法があるからな。
｢じゃ、一回。｣
四百円と割高な金を払い、弾を受け取る。
｢ん。｣
それをそのままレイズに渡す。
｢は？｣
｢お前得意だろ。｣
｢だからってなんで。｣
｢お前が休んでてわかんねーっつってた宿題写させてやるから。ついでに休み明けのテスト範囲のノートも見せてやる。｣
｢乗った。｣
 
はい、交渉成立。ちょろいな。因みに俺ノートとらない主義なんだ。書かなくてもわかるし。
そんなちょろいレイズくんは俺からコルク弾を受け取ると詰め込む。この時点で目がマジだ。勉強のため云々というより、銃持つと性格変わるんじゃねーの、こいつ。将来警察にでもなればいいと思うよ。
 
かっ。
 
真っ直ぐと倒れやすいところを狙い、弾詰めも矢鱈早い。そして三発目で見事落とした。
まぁなんというか、
｢予想通りすぎて面白みねぇな。｣
親父の悔しそうな顔は笑ったけど。
ゲームを抱えてそんな風にぼやけば殴られた。
 
｢……疲れた。｣
｢そういうワリにノリノリだったじゃねーか。つーか射的に疲れるとかなくね？｣
｢悪かったな。ウチの分まで。｣
｢いーよ、クロノは。流石に金魚だけじゃ可哀想だろ。｣
そうなのだ。余った最後の二発でこいつはもふもふとしたぬいぐるみとラジコンを落とした。どうやってとか聞いてはいけない。これに関してはチートだから、こいつ。こっちのが、細工されてたとはいえゲームより落とすの難しくないか。てか俺の金なんだけど。
しかし、やはりというか、ぬいぐるみを抱える大男はシュールだ。ウケる。だが隣にいるというのはいただけない。第三者でいたい。
 
入ってきたときの反対側につくと盆踊りの音が近い。この奥でやっているのだろう。小さいころ無理矢理輪に放り込まれたのを思い出す。俺じゃない、レイズが。
勿論参加する気はないのでこのまま帰宅コース。……クロノのためにも。とかいいつつ本人気にしてないのはあれか？保護者の域だからか？まだコーコーセーですよ。ほんと。ここでは。
 
｢帰るか？｣
｢ん。｣
｢お前らウチ泊まってくか？｣
｢ああ、うん。｣
｢なら俺一旦帰るな。金魚置いてくる。｣
｢そのウサギも置いて来い。｣
 
だらだらと帰路につく。
帰ったらゲームやろう。
 
からころと下駄がなる。
それでもそれは喧騒に掻き消されて。
 
｢あ、｣
 
賑やかさが遠ざかった、街灯だけが照らす暗がり。
ふと思いだして声が零れる。
　
｢ラムネ飲むの忘れてたわ。｣
 
思い出したら無性に飲みたくなった。
それでも家路を辿る下駄の音は止まない。
　
自販でサイダーでも買っていくか。
 
　
 
 
夏はまだ、終らない。

 

　
あとがき

通常運転で喋っているので学パロの意味を見失いかけましたが…
平和ってことが一番のパラレルってことで。
一番の反省点はイルネスの姉ことカーナ無双になったことだと思います。
いや、ほんとすいません。
あとほんとはあそこまで期待させておいて失敗する予定でした。射的。
以下学パロの上での補足。

腐れ縁トリオは高二くらい。
クロノの弟はカルマ。
お隣さん家がエレナ。
浴衣はレイズが濃紺でクロノが海松茶色。
イルネスが手に入れたゲームのタイトルはMasterMind(笑)

学パロだとレイズは偏食ぎみなイメージがある。
あとあんま頭良くないくせに体調不良とかで学校休むから落第ぎりぎり。
クロノはこつこつと勉強する。イルネスは天才型。

さて、本文長いくせにここも長くしてどうするんだってことでそろそろ…

読んでくださってありがとうございました！
お持ち帰りはゆに様だけでおねがいします。