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今回はひっさびさの本編です。
前回に比べて短いです。でも地の文は多めかもです。
場面は変わってグランシア家。これ本編でやる必要なくないか?と思いつつ、癒しとして入れてみました。
久々に書いたのでいつにもまして文がかたいかと。
「おかえりー。」
「ん、ただいま。」
扉の開く音に当たり前のように声が掛けられるから、声を返す。
事実、当たり前なのだろう。少なくともここの家主にとっては。
カルマにとってもそれは既に慣れたことだったが、いまだ腹の底がむず痒くなるときがある。
「なぁ、」
「なによ?」
それを誤魔化すように発した声に、リビングのソファにうつ伏せに寝転がって読書に勤しむエレナは返事と共に視線をその方へやる。
丁度キリが良かったらしい。
夢中になっているときは生返事しか返ってこないのをここの住民はよく知っていた。
今回もまともな返答を期待していなかったカルマは思わず、「…なんでもない」と返す。
「なにそれ。」
「特に意味とかねぇよ。」
「ふぅん。」
今日は機嫌がいいらしい。
怒るでもなく文字に視線を戻す。
カルマが表紙に目をやれば『ゼロから無限へ』の文字。数字は買い物の計算だけで沢山なカルマには何が面白いのか理解できない。
興味も失せて自身も読みかけを読んでしまおうと彼女が占領するソファに座ろうとする。
足が邪魔でぞんざいに掴めば蹴りが返ってきたが、もぞもぞと体育座りに体勢が変わり座れるスペースが空く。
素直じゃないやつ、なんて彼女が聞いたら憤慨し、誰かが聞けばお前がいうなと言われることを思いつつ遠慮なく腰掛ける。
読むのは先日小遣いで手に入れた、夕飯の買い物ついでに露天で杜撰に売られていた一冊。
よれた表紙には『華氏451度』。
いつの間にか彼も足をソファに上げ丸まるような格好で読みふけっていた。
無言の空間。
ページを捲る音だけが微かに聞こえる。
交わされる言葉などなく、それでも、どちらもが隣にある体温を確かに感じていた。
「ただいま。」
灰色を埋める濃紺に空が塗り潰された頃。
家主であるクロノが帰宅を告げる。が、いつものように我先にと返る声がない。出かけているのか、とも思うが、外は暗い。
主観的には勿論、客観的にも綺麗な容姿をしている少年少女には危険すぎやしないだろうかなどと、「おかえり」のひとことがないことそのものにも一抹の寂しさはあれど、すっかり親の心境で不安になる。
土産もあるのにな、と左手に持つカップケーキが入った箱の存在を思いながらリビングへ足を向ける。
「ただいま、」
もう一度、帰宅を告げる声は幸せそうな苦笑に変わる。
彼の視線の先、互いに寄り添って眠る二人の姿があった。文字裏の世界から夢の世界にいってしまったらしい。
ブランケットを、なんて思いながらクロノは明日に食べることになったケーキをテーブルに置く。
窓から灯りが消えるのはそれからすぐのことだった。
あとがき
ということで何処かのレイズさんとは大違いな幸せクロノ一家でした。
そんな感じで二つの家の対比とか、カルマとエレナの嗜好の違いとか。
カルマは物語が好きで、エレナは理系というか経済系とか。
二人とも頭悪くないです。ほんとはエレナはケインズさんだかハイエクさんだかの本読ませてたんですが、私が理解できないのでやめました。
といいつつ作中の本は未読なんですが…
カルマは私が読んだことがある同作者レイ・ブラッドベリの『メランコリィの妙薬』という短編集だったのですが、タイトル的に彼が買ってくれなさそうなので諦めました。
エレナのは数字の本らしいです。コンスタンス・レイド著(参照は芹沢正三訳)、ブルーバックスシリーズだそうです。
詳しくはぐぐってご参照ください。
以上本の紹介でした!(違
とまぁ、幕間的なお話でした。