作者が好き勝手やってる文字の掃き溜め
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ご無沙汰しております。
元気です。
読んでた本が断章形式で書かれてそれに触発されたブツです。
時間軸は本編前。レイズとアースの話。日常。
…ただのレイアスともいう…。
0
その日はいつも通りの曇り空。
そして彼にとってはいつもより遅い朝。
けれど、外の景色はなんら変わりはない。
ただ朝特有の冷たさがないだけ。
手入れのない黒髪に力のない同色の目。肌は白いを通り越して生気に欠けた青白。長身痩躯といった表現がぴったりな身体は気だるさを隠そうともしない。
大仰な欠伸をひとつしてテレビをつける。
一昔前が息づくこの街では四角い箱は未だブラウン管だ。
どこの電波を盗ってきているのか。そんなことは彼の知ったことではなかったがブロンドヘアの女性アナウンサーが早口で「最新」ニュースをまくしたてていた。日付は9月28日。今日は10月2日。
1
この街はいつでも灰色で、青が見られる日なんてほとんどない。
気候は安定しているけれど秋は早くて冬は寒い。
自宅にまだ眠るコートの在処を思い出しながら彼女は歩いていた。
太陽光の色をした髪は肩かそれより短く、瞳も似たような色をしていた。
実年齢より幼くみえるタイプ。それははたして顔つきからか性格からか。
目も眩む高さのビルが乱立しているから風が強烈に吹き荒ぶ。
風になぶられた髪が視界を邪魔する。
やっぱりコート着てくればよかった!なんて思ってももう遅い。
とにかく早く彼女は目的地を急ぐ。
向かい風は目に痛い。
2
朝からだるさがとれない。
そんなことはいつものことだが。
めぼしい番組は特になくテレビは既に消してしまった。
なにをするでもなく男はソファに横たわっている。
肘掛け部分を枕にして今にも寝てしまいそうだった。
彼としてはまたベッドに沈む気はない。
限りなく自由業に近いがどうあがいても社畜の彼にとって今日は貴重なオフ。
来客の予定もある。
それでも睡魔の誘惑に勝てないのはついさっき飲んだ処方箋のせいか。微睡みに落ちる寸前、頭の中には確信めいた推測が浮かんだけれど。
正否を確かめることもできない。
外に似た灰色の部屋にどことなく鉄錆のにおいがする。
住人である彼が果たして気づいているかは別として。
3
チャイムすらない安いアパートは壁も薄ければドアも薄い。
だから強めのノックは相手に届いているはずなのに一向に返事がない。
鍵が開く気配もない。
公的機関らしい公的機関がないここでどんな不審な行動をとろうが牢屋へ直行、なんてことにはならないけれどこの界隈で女がうろうろするのも誉められたものではない。主に自身の安全のために。
近所迷惑は考えない。この階の住民は彼ひとりなのだから。
「しょうがないなぁ。」
独り言と共に出したのは合い鍵。
そして、彼女は手にある合い鍵を使わずドアノブを回した。
一応他人の家だからノックはしたけれど、不用心な彼の家はいつだって開いてる。
合い鍵の活躍はまた延期だ。
4
男が目を覚ましたのは灰色を割く夕映えが部屋を満たす頃だった。
昼間は雲が覆うばかりの空は橙に染まると顔を出す。
寝過ぎてか少し痛む頭を押さえて身体を起こせば、香ばしい匂いに気づく。
「来てたのか。」
台所は死角になって見えないが、訪問者は明白だった。
「鍵くらい掛けなよ。」
「誰がこんなビンボー人襲うんだよ……。つか、そんな簡単にやられるかって」
「私来ても気づかなかった人がよく言う……」
「命の危険なら起きる。」
言外にお前だから起きなかったと言われるも心配なことに変わりはなく。
知らず寄せた眉に気づき男はこそばゆい気持ちになる。心配されることに不慣れな彼はその気持ちを溜め息にするという愚行をおかすが彼女は気にした風でもなく、寧ろ微笑ましげに苦笑を浮かべた。
しょうがないな、と。
彼女にとっては眠っていたときは青白かった顔が少しは赤みが差していることが何より安心した。
本当にしょうがない。
5
キッチンに立つ彼女の背後に立ち手元を覗き込む。
「ラザニア?」
「うん。起きるの遅そうだったからねぇ。」
「バケットある。焼くか?」
「あ、お願い。」
「ん。ピクルスは?」
「お手製?」
「節約。」
「ぜひ食べたいな。」
会話しながらもそれぞれ手は動いていて。
あっという間に晩餐会と相成った。
湯気が立つ料理。
乾杯の音。
二人だけの空間。
シャンパンの泡は喉ではじけた。
「明日は?」
「仕事。今日は?」
「泊まってく。」
彼女はゆったりと微笑んだ。
彼も目を細める。
6
静かな夜だ。
いつだって住民は息を潜めている。
誰とも関わらないように。
月はなかった。
7
おんぼろアパートなのに寝室があるのは隣室との境を取っ払ってしまったから。
小太りの大家は終始苦い顔をしていたが家賃2部屋分で納得した。
だから男の家は寝るためだけの部屋がある。
固いベッドに擦り切れたシーツ。
それでも彼女が来る日は一番ましなのを敷く。
8
「良い朝だね。」
起き抜けに声が掛かる。
微睡みを許さない朝の冷たさ。
思わず身を震わせると隣の彼女が笑った。
薄い雲の向こうが明るい。
彼女へ伸ばされた手。
しかし、すぐに自身の口元へ戻される。
ふいに、男は咳き込んだ。
無音に落ちる音。
彼女のまなざし。
それを見ないふりして背を丸める。
やはり部屋には鉄錆のにおい。
それは、最初から。
常に居る彼女が気づいているかは別として。
9
「またね、レイズ。」
「ああ、アース。」
交わされた言葉、くちづけ、想い。
交わされない言葉、想い、視線。
どこにでもある風景。
何の変哲もない、一日。
end…?
元気です。
読んでた本が断章形式で書かれてそれに触発されたブツです。
時間軸は本編前。レイズとアースの話。日常。
…ただのレイアスともいう…。
0
その日はいつも通りの曇り空。
そして彼にとってはいつもより遅い朝。
けれど、外の景色はなんら変わりはない。
ただ朝特有の冷たさがないだけ。
手入れのない黒髪に力のない同色の目。肌は白いを通り越して生気に欠けた青白。長身痩躯といった表現がぴったりな身体は気だるさを隠そうともしない。
大仰な欠伸をひとつしてテレビをつける。
一昔前が息づくこの街では四角い箱は未だブラウン管だ。
どこの電波を盗ってきているのか。そんなことは彼の知ったことではなかったがブロンドヘアの女性アナウンサーが早口で「最新」ニュースをまくしたてていた。日付は9月28日。今日は10月2日。
1
この街はいつでも灰色で、青が見られる日なんてほとんどない。
気候は安定しているけれど秋は早くて冬は寒い。
自宅にまだ眠るコートの在処を思い出しながら彼女は歩いていた。
太陽光の色をした髪は肩かそれより短く、瞳も似たような色をしていた。
実年齢より幼くみえるタイプ。それははたして顔つきからか性格からか。
目も眩む高さのビルが乱立しているから風が強烈に吹き荒ぶ。
風になぶられた髪が視界を邪魔する。
やっぱりコート着てくればよかった!なんて思ってももう遅い。
とにかく早く彼女は目的地を急ぐ。
向かい風は目に痛い。
2
朝からだるさがとれない。
そんなことはいつものことだが。
めぼしい番組は特になくテレビは既に消してしまった。
なにをするでもなく男はソファに横たわっている。
肘掛け部分を枕にして今にも寝てしまいそうだった。
彼としてはまたベッドに沈む気はない。
限りなく自由業に近いがどうあがいても社畜の彼にとって今日は貴重なオフ。
来客の予定もある。
それでも睡魔の誘惑に勝てないのはついさっき飲んだ処方箋のせいか。微睡みに落ちる寸前、頭の中には確信めいた推測が浮かんだけれど。
正否を確かめることもできない。
外に似た灰色の部屋にどことなく鉄錆のにおいがする。
住人である彼が果たして気づいているかは別として。
3
チャイムすらない安いアパートは壁も薄ければドアも薄い。
だから強めのノックは相手に届いているはずなのに一向に返事がない。
鍵が開く気配もない。
公的機関らしい公的機関がないここでどんな不審な行動をとろうが牢屋へ直行、なんてことにはならないけれどこの界隈で女がうろうろするのも誉められたものではない。主に自身の安全のために。
近所迷惑は考えない。この階の住民は彼ひとりなのだから。
「しょうがないなぁ。」
独り言と共に出したのは合い鍵。
そして、彼女は手にある合い鍵を使わずドアノブを回した。
一応他人の家だからノックはしたけれど、不用心な彼の家はいつだって開いてる。
合い鍵の活躍はまた延期だ。
4
男が目を覚ましたのは灰色を割く夕映えが部屋を満たす頃だった。
昼間は雲が覆うばかりの空は橙に染まると顔を出す。
寝過ぎてか少し痛む頭を押さえて身体を起こせば、香ばしい匂いに気づく。
「来てたのか。」
台所は死角になって見えないが、訪問者は明白だった。
「鍵くらい掛けなよ。」
「誰がこんなビンボー人襲うんだよ……。つか、そんな簡単にやられるかって」
「私来ても気づかなかった人がよく言う……」
「命の危険なら起きる。」
言外にお前だから起きなかったと言われるも心配なことに変わりはなく。
知らず寄せた眉に気づき男はこそばゆい気持ちになる。心配されることに不慣れな彼はその気持ちを溜め息にするという愚行をおかすが彼女は気にした風でもなく、寧ろ微笑ましげに苦笑を浮かべた。
しょうがないな、と。
彼女にとっては眠っていたときは青白かった顔が少しは赤みが差していることが何より安心した。
本当にしょうがない。
5
キッチンに立つ彼女の背後に立ち手元を覗き込む。
「ラザニア?」
「うん。起きるの遅そうだったからねぇ。」
「バケットある。焼くか?」
「あ、お願い。」
「ん。ピクルスは?」
「お手製?」
「節約。」
「ぜひ食べたいな。」
会話しながらもそれぞれ手は動いていて。
あっという間に晩餐会と相成った。
湯気が立つ料理。
乾杯の音。
二人だけの空間。
シャンパンの泡は喉ではじけた。
「明日は?」
「仕事。今日は?」
「泊まってく。」
彼女はゆったりと微笑んだ。
彼も目を細める。
6
静かな夜だ。
いつだって住民は息を潜めている。
誰とも関わらないように。
月はなかった。
7
おんぼろアパートなのに寝室があるのは隣室との境を取っ払ってしまったから。
小太りの大家は終始苦い顔をしていたが家賃2部屋分で納得した。
だから男の家は寝るためだけの部屋がある。
固いベッドに擦り切れたシーツ。
それでも彼女が来る日は一番ましなのを敷く。
8
「良い朝だね。」
起き抜けに声が掛かる。
微睡みを許さない朝の冷たさ。
思わず身を震わせると隣の彼女が笑った。
薄い雲の向こうが明るい。
彼女へ伸ばされた手。
しかし、すぐに自身の口元へ戻される。
ふいに、男は咳き込んだ。
無音に落ちる音。
彼女のまなざし。
それを見ないふりして背を丸める。
やはり部屋には鉄錆のにおい。
それは、最初から。
常に居る彼女が気づいているかは別として。
9
「またね、レイズ。」
「ああ、アース。」
交わされた言葉、くちづけ、想い。
交わされない言葉、想い、視線。
どこにでもある風景。
何の変哲もない、一日。
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