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「」
レイズを眠りの淵から覚醒へと促したのは回想と寸分違わない少女のこえだった。
「おなかすいた。」
いつだってこちらの都合を無視した言葉に、眠りを妨げられたレイズの米神がぴくりとうごく。
その怒気を気にする素振りもなく、ルナはもう一度自分の欲求を口にしたのだった。
「早くして。おなかすいた。」
その言葉に呆気なく堪忍袋の緒が切れるレイズ。
「ってめ、ふざけんじゃ、」
「五月蝿いですよ、センパイ。」
だがその叫びもレイズにとってもう一人のストレッサーによってあえなく中断させられてしまう。
苛立つその視線のまま、割り込んできた張本人、シアを睨めばこちらも気にした素振りは全く無くにこやかに微笑んで、
「さ、早く作ってくださいよ」
と言い放ったのだった。
 
こちらを一切気にしない二人に最早怒るのは無駄と諦め―といっても諦めきった訳ではないのだが―キッチンに立つレイズ。
そんな彼を無視して残された二人はテーブルに着いた。
「ねえ」
初めてルナから話しかける。
その事実に驚きながらも露ほど表情には出さず「なぁに？」と乗る。
「此処の人間て、皆こうなの…？」
「うん？」
要領を得ない文脈に聞き返せば、ぽつりぽつりと話し出す。
「レイズに、意外だって言った。もっとこの都市の人間って、殺すことに躊躇いのないのばかりだと思ってたから。」
「躊躇いなんて実際ないですよ？」
その言葉にルナは首を横に振る。
「でも、出会い頭に発砲、とかはないでしょう？」
「そりゃ。っていうかルナさん、どんなん想像してたんすか。」
笑うシアにルナは続ける。
「人が死ぬのが当然な世界。でも、想像より平和で、意外だった。だから言ったの。」
 
「それで、センパイはなんて？」
 
当然の如く落とされた問いにルナは記憶のまま答える。
 
「『誰だって死にたくはないからな。それに一度殺したら気づく。殺した奴との違いは、単に運の良し悪しだけだ、ってな。』って。」
「へぇ。あの空っぽそうな頭なりに悟ってるんですねぇ。」
本人に聞こえていたら手か足が出そうな言葉だがルナが気にするはずもなく、自分の問いたいことを、問う。
「あなたは？」
真っ直ぐな目で問われ、それにくすりと笑って答える。
「きっと皆面倒くさいんですよ。だって他人が生きていても死んでいても自分には関係ない。だったら手間が掛からないほうがいいでしょ？」
その答えに満足しているのか否かはシアには分からなかったが、ルナは相変わらず無表情で「そう」とだけ返した。
 
ぽつ、と落とされた沈黙。それを破ったのは今まで律儀に飯を作っていたレイズだった。
 
「おい！運ぶくらい手伝えや！」
 
不機嫌を隠そうともしないその声に動じるはずも無い二人だったが、シアは席を立つ。
その動きを目で追っていたルナにシアはウィンクをひとつ。
「最後に。」
過ぎ去り際に囁かれた言葉。
「人が死ぬのは当然だよ？」
 
ルナはとっさに振り返るが映るのはシアがレイズをからかういつもの図で。
ルナが眉をひそめたのを視界の端に映してシアは口角を上げた。