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作者が好き勝手やってる文字の掃き溜め
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こらぼ企画のつづきです。
こんかいも中途半端。こっちサイドはまだ続きます。

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 見上げる先は変わらず灰色で。
 その事実にアヅサは幣癖していた。
 
 楽しいところだと言われるまま散策しているものの全く土地勘の無い場所で楽しむもくそもないだろう、と文句をいいたい相手はここにはいない。しかもどう間違ったのか楽しいとは程遠い、酷く懐かしささえ感じる場所に行き着いてしまったらしい。
 灰色に灰色を重ねたような、生臭い、死が近い場所。
 俗にスラムと呼ばれるそこは彼の記憶の場所とは違うはずなのに、色が、においが、静けさが、重なる。
 
 「きゃっ」
 忘れられるはずもないそれを思い出していたからか、前方から来た小さな影に気づけなかった。
 ささやかな衝撃と甲高い声に我に返る。
 
 「あ、ごめんね?大丈夫?」
 声のほうへ目を向ければぶつかった少女と目が合う。
 少女は丁度、アヅサの記憶のなかの妹と同じくらいで。
 アヅサは自分の顔が僅かに綻んだのを気がつかなかった。
 
 「ご、ごめんなさい…っ」
 
 そんなアヅサの反応に安堵もあったのか軽く息を吐き、謝罪を述べる少女は外見よりも大人びてみえる。
 「いいよ。こっちこそごめんね?」
 そう笑えば今度こそ本当に安心したのか少女も笑い返した。
 
 そして、
 少女は駆け出していた。
 
 「へ?」
 
 少女はすっかり離れたところでわざわざ呆気にとられる彼のほうを振り返り、勝ち誇ったような、小馬鹿にしたような、およそ十歳前後の子供が浮かべないような艶やかな笑みを浮かべ
 「ばーか。」
と、片手に財布をひらひらと見せる。
 
「え、」
とっさに懐を確認するとあるはずの財布がなかった。
アヅサは忘れていた。ここが生を渇望する、悪も必然化するスラムであること。そして関わってきた女性は数あれど最近、身近にいた女子供がアリス、リーシェ、視奈という悪意からは程遠い者たちであったため油断していた。しかもそのせいで状況を飲み込むのに時間がかかる。
 
「っの、」
 
 反射的に銃を構えるが、こんな往来で、しかも相手がまだ子供なのを頭が判断し、さげる。弾は装填されてはいなかったが彼には関係なかった。
 
 その間にも少女は駆けていく。
 
 「な、に、やってんだ、俺はっ」
 
 実際はこのソドムにおいて、往来の発砲も、その相手の年齢も、誰も気にしないものではあるのだが、余所者であるアヅサが知るはずもなく。
 撃とうとした、という自己嫌悪に舌打ちをして、アヅサは駆け出した。
 
 少女はもう、見えなくなっていた。
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