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作者が好き勝手やってる文字の掃き溜め
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ここの看板作品MasterMind。
そのプロローグです。

このシリーズ(?)はR-15,R-18Gな気持ちで書いてます。
…書けてませんが。

そういった描写がある場合注意を記しますが閲覧は自己責任で。

※途中リア充がいちゃついていてイラっとする場面がありますが強制終了致しますのでご了承ください。

あとすいません、長いです。

12年3月6日、13年6月5日に加筆修正しました。

拍手[1回]




 世界の終わりが、嗤う。

 MASTER MIND
 

彼等は知らない。
自分達が生きているその場所を外の人間が
憐憫と侮蔑と畏怖を込めて業の都市の名を冠していることを。

彼らは知らない。
その場所の人間達が歪で不安定なバランスの上で確かな社会を形成していると。

彼らは知っている。
その場所が、世のはぐれ者や咎人の行き着く先であると。
即ち、彼等は底辺の人間であると。

彼等は知っている。
裁かれる人間であろうと裁く人間であろうと
咎があろうと徳があろうと
人間の中で底辺であろうと頂点であろうと
所詮人間は最初から底辺の生物であると。

彼等は呼ばない。
己らにとってその場所が世界であるから。

彼らは呼ぶ、

正義から倫理から地図から
物理的に法的に
隔離され閉ざされたその場所を

其処にいきづく者(彼等)が知る由もない

『ソドム』―神に滅ぼされた都市の名で。


―…

むせかえるような血と硝煙の香り。
破壊された肉塊。
数刻前まで人間だった、モノ。
そのなかで彼は立っていた。

曇天は重く立ち込めていたが雨は降らず、彼をそれから解放することを赦さない。
それでも彼は天を見ていた。
雨を乞うでもなく、唯。

意思に欠けた表情からは何も読み取ることはできず、只、彼のものではない赤がまだ黒に変わらず死を彩っていた。

「ご苦労サマ。」
声と共に不意に現れた気配。
「……終わったぞ。」
それに大して反応を示すこともなく一言、返した。
気配がわらう。
「うん、知ってる。
よく出来ました、赫人さん。」

「は、そりゃどうも。」

子供を褒めるときのような言葉に赫人と呼ばれた青年は嗤う。

「でも、なんでワザと血なんか浴びるのさ。錆臭いし趣味悪いよ?」
「そりゃ赫人だからな。」
「どうせ黒になるのに。
……まぁ及第点かな。いいよ、それで。」
「……何が。」
そこで初めて彼は気配の方へ振り向いた。
立っていたのは彼より少し背が低いわざとらしい笑みを張り付けた青年。
その青年が表情を崩すことなく言葉を羅列する。
「たとえ君が下らない理由でそんなことしてたとしても、僕はそれで納得してあげる。
ボスのせいにしようと思わないだけマシだしね。」
「そーかい。」
「うん、たとえ君が罪滅ぼしからそれをしていたとしても、単に血を被るのが心地よいからそれをしていたとしても―まぁ後者だったら引くけどさ―僕は気にしないから。」

それが図星であると踏んで、青年はそれを口にしたわけではない。その上、
「……お前の言うこと一々気にしてたら死ぬわ。」
これくらいのことで目の前の男が折れることがないのを知っている。
―そもそも、そんな事で折れるくらいではあの人が興味をひくはずもないのだ。

「確かに僕は嘘吐きだよ?
だけど嘘ばかり吐くわけじゃない。そんなのは唯の正直者(ばか)だ。
それに、狼少年だって最後は本当を言ったんだ。聞く価値はあるよ?」
もっともらしいことを言ってやれば、だから面倒くせぇと呆れられた。
その反応にわらいながら青年は男に背を向ける。
それを会話の終了と受け取ったのか歩きだそうとした男だったが、急に足を止め屈みこむ。
青年は気づいているのかいないのか既にいない。

「……ぅ、」
そして訪れたのは激しい咳の発作。
口元を押さえた指の間から今度こそ彼自身の赤色が零れた落ちる。
肩で息をしながらも頭は冷静で、あ、薬忘れてた。などと原因を思いだしていたが、体は思っていたより悪いらしい。
全く力が入らないのを確認し、彼は瓦礫の死臭のなかで一時

眠りに堕ちることを選んだ。
眼を閉じる前、太陽光の色をした彼女を想う。
今、彼女にとても会いたいと思った。

―そして彼の意識は切れた。

 

―…

そこは灰色だった。
空気も匂いも音も全てが灰色に濁っていて。
少女は静かにそこへと入っていった。
瞳に確かな決意を宿して。

―…

そこは死臭しかしなかった。

つくづく嫌な仕事だと思う。

クロノ・グランシアはその凄惨な光景に眉を顰めた。
「解体屋」と呼ばれる彼の仕事は所謂死体処理(あとかたづけ)で、案外力の要る作業だ。
その点では彼のその190㎝はあろう体は適しているといえたが、好きかどうかはまた別だった。
尚且つ、この光景をつくりだしたのが昔つるんでいた腐れ縁の一人であると知っていたので。

「うわ、」

と、後ろにいた少年―カルマもまたその光景を見て呻いた。
彼も留守番させておくんだった、と酷い顔をしている同居人をみてクロノは後悔する。
せめて早く片付けようと、チェンソーのスイッチを入れた。

と、

「クロノっ!こいつ……。」

エンジン音に負けないくらいの声でカルマが叫ぶ。
その声色に焦燥が含まれているのを不思議に思い、振り向いてみれば、

「……レイズ…?」

この状況を作り出した筈の張本人が苦悶の表情で横たわっていた。

―…

曇天が常のこの街の空は夕暮れ時に嘘のように晴れ渡る。
血潮のようなその紅は貧民街(スラム)にも市場にも、高層ビル最上階の一室にも等しく時を告げていた。

そして、夜が来る。

ある者には平穏を
ある者には死を
ある者には変化を
ある者にはその全てを
その濃紺の手に携えて。

―…
 
レイズ・クォーツは自らの家―といってもリビングダイニングの他に

一部屋しかない簡素なアパートの一室だが―の片隅に置かれたソファに沈めていたその身を覚醒させる。
適当に切られた髪も開かれた両眼も黒一色で、灰色のこの街から何処か浮いてみえた。
そんなことに興味などないのか、隠されることのないその髪を掻き上げながら、彼はカウンターに置かれた薬壜を取ると三、四錠出して口へ放り込む。
水無しで飲み下されたそれは無味のはずだったが苦い表情を浮かべ、キッチンへと足を運んだ。

フライパンを熱しながら手際良く準備をする。
間もなく香ばしい香りが小さな部屋を満たした。
本来、決して低くはないその生活能力が発揮されることはないのだが、最近は彼の元へ足繁く訪れる客人の為にその腕がふるわれる。
後は盛り付けテーブルに並べるだけになり、壁に掛けられた時計を見やる。
鍋の様子をみてからベランダへ出ればタイミングを計ったように待ち人はすぐ現れた。

彼女はアース・トパーズ
その名の通りの黄玉色の瞳と、ここでは滅多に見ることは出来ない太陽光。その色を宿した髪色の、女性(ひと)。
相手もレイズの姿をみとめると持っていたボトルを掲げてみせた。

 「飲も?」
 「ああ。」

穏やかな笑みは、まだ少女のあどけないもので。
自然、レイズも表情を弛ませた。

          *

「やっぱりいつ見ても美味しそう!」

毎日来ているというのに彼女から出る賞賛は毎回純粋な感動に満ちていて。
苦笑しつつ、スプーンを渡してやる。
一口食べるたびに感激するアースに、レイズはやはり苦笑した。

「……なぁ、アース」
粗方飲んで食べて、ボトルもグラスも皿も空になった頃。
何気ない会話が途切れ不意に訪れた沈黙を破った言葉はついさっきまでとは違う空気を纏っていた。

「ん?なに?」
それに気づいているのかいないのか、アースは変わらず聞き返す。

「お前は、何で俺といるんだ?」
返ってきたのは、本当に単純な問い。

「……今更だねぇ?」
 
「、あーっ、やっぱいい、」
逆に問われて気恥ずかしくなったのか撤回するが、

「……、大丈夫だよ。」
それを気にした風も無く答えのかわりに呟かれた言葉は、笑みは、とても力強かった。
彼女は続ける。

「私は君が殺し屋で、しかも都市伝説にまでなってる『赫人』だってしってるよ。
だけどね、」
そこで言葉を切ったアースは手をレイズの頬に添える。

「知っていて、私はここにいるの。」
視線が絡まる。そのまなざしの優しさに、
息が、止まる。

「、」

「だいじょうぶ。」
 
「~~~~っ、
 ……お前、よくそんな、……」
顔を赤くしたレイズは思わずアースの手を振り払い、そのままキッチンへ行ってしまう。
そんな彼に、問うたのはそっちだと怒るでもなくアースは悪戯っぽく笑い、
 
「えー。ホントのことじゃない。」
 なんていう。

顔の火照り、口元が弛む。

―嬉しい、とても。

彼女がいるだけで、救われる。


それだけで、レイズにとって幸せなことで。
だから、気づかなかった。

愛(かな)しい、彼女の決意に。

 


―…
 赤 朱 紅 赫

 あかいいろ。

視界を染めるその色に軽い眩暈をおぼえるが、レイズは状況を正しく理解していた。

―これは、夢だ。

それでも眩暈が治まらない。
ぐるぐると世界が回り、そして―

「……?」
視界を埋めるのは白だった。
ぼんやりと「死んだか?」 などと思う、が。
「この、だ阿呆!死体と一緒に寝るな!」
飛んできた怒声で生きていることを知る。
身体が動く気配が無かったので首だけを声の方へと向ければ、深緑の瞳で睨み、腕を組んで仁王立ちしている見知った顔があった。
「ともかく、クロノに感謝するんだな。あいつが仕事で見つけなかったら死んでたんじゃねーの。」
医者だというのに煙草を吸いながら軽く重大なことを告げる目の前の男を気にする風でもなくレイズは口を開く。
「イルネス、」

「あ?聞いてたか?俺の話。」

「ああ。クロノには礼言っとくから。」

「……あー、当然だろ。それは。」

「お前も、さんきゅ。」

「…………それこそ当然だ。」
それより眠れと部屋を暗くすれば疲弊した身体は既に限界を超えていたから、すぐに静かになった。

ガチャンと扉を閉める。
男の視線の先には黒に近い灰色の短髪と眼の体格のいい青年がソファに腰掛けていた。
「寝た。」
「そうか。」
奥の部屋で寝ている青年を見つけてきた眼前の男、クロノは安堵の溜息を漏らす。
起きる前の彼の眠りは浅く魘(うな)されていたからだ。
「あいつ、薬持ってなかったんだろ。」
「ああ。」
クロノの肯定に舌打ちするイルネス。

「ったく、阿呆が。
何であいつは死にたいわけでもないだろうに、自分を省みないかねぇ?」

その疑問符に答えずにクロノも苦い顔を浮かべた。

 


―…

珍しく星が綺麗な日だった。

それは彼がある秘密を抱えていることを知った日。
彼女にとってそれは重い真実だったが、彼女はそれを飲み下すことを決めた。
彼がそうしたように。
けれど、それは彼にも彼女にも重すぎた。
その重さがわかるから自分のために真実(それ)を飲み下した彼が重みに潰されないかが心配だった。
そんな思考を胸中に秘めてレイズの元へ向かう。
「?」
いつも、ベランダでアースを待っている彼がいなかった。
「レイズー。」
まだ料理をしているのだろうか、そんなことを考えながら勝手に家に入ってしまう。
彼は自分に恐ろしく無頓着であったから鍵が開けっ放しなのはいつものことであったし、それを知って上がりこむこともままあることだった。
だからそれはアースにとって軽い気持ちで。
予感などはあるはずもなかった。

―最初に見えたのはソファから出た足。
次に丸まるようにして横になる彼の全貌が見えた。

「――っ。」

いつも着ている黒のコートはそれより濃い深紅に染め上げられていて。
中に着ているカッターシャツも同じ色をしていてそれが返り血ではないことがわかる。
さらに荒く吐かれる息は熱く、熱もある。

「薬、は。」

アースはカウンターを見るがいつも無造作に置かれている薬壜がない。
焦りながらも、せめてと仰向けにしてシャツを寛げてやれば、それだけでも少しは楽になったようで表情が僅かだが和らいだ。
だが、状況が改善されたわけではなく、アースは次の行動を思案する。


「     。」
 

「っ、」

と、熱に浮かされた彼から零れた言葉。
それは痛々しく、残酷だった。

そして、彼女は―

         *

「連絡、助かった。」
「ううん。私じゃ、何もできなかったから……」

あのあと、アースはレイズの携帯を使い、彼の知り合い―彼ら曰く〝腐れ縁〟―の医者を呼んだ。
流石は本職で、一時間ばかりで処置は済んだらしい。
状態を聞いて安堵するアース。
その様子を医者は煙草に火をつけて見ていた。

           *

医者―イルネス・ホルムは電話を受け取ってすぐバイクを飛ばした。
聞かずとも原因など容易に想像がつく。
そもそも、都市伝説をいいようにできるものなど、限られているのだから。

盛大に舌打ちをし、アクセルを思い切り踏み込んだ。

           *

「…、」
レイズは翌日の夕方、眼が覚めた。
視界はいつもの天井で、なのに何かが違う気がした。
身体を起こせば、不機嫌な知り合いが台所からでてきた。
違和感はそれだと気づく。
しかし、何故いるのだろうか。と彼が頭を捻っていると、
 
「ったく、お前バイクに乗せらんねぇから、俺がこんな狭っ苦しい家に泊まることになったんだからな。」
いつかのような怒声ではなく、愚痴のような言葉が呟かれる。
その言葉を働かない頭の中で反芻する。
バイク、乗せられない、泊まることになった。
そのついでとばかりに漸く身体を襲う倦怠感喉に残る鉄の味を自覚してやっと自分が何かをやらかしたのだということに思い至る。目の前の医者が問うことはない「こうなった理由」を思い返しながら、彼はふと、浮かんだ疑問を口にした。
「お前、何しに来たんだ?」

「命の恩人サマにそれか?
…美味い酒が入ったんで持ってたらてめぇが倒れてたんじゃねーか。ああ、酒は俺が全部飲んだから諦めろ。」

「あー。っつっても俺帰宅した記憶もねーし。つか飲むなよ。何の為に来たんだよ。」

「うるせぇ。黙れ。八つ当たるな。」  
 これだけの減らず口を叩けるなら問題はないだろう。青筋を浮かべたくなるのをこらえてイルネスは、つい十数時間前、アースとのやり取りを思い出す。

処置も終え、さっさと帰ろうとする彼の背に向かって、アースは申し訳なさそうにある頼みを口にした。

『…今晩、私来なかったことにしてもらっていい、かな?』


彼女がレイズの看病をひとに頼むのは相当なことで。
なので断わることも、また理由を聞くなど野暮なこともできず彼は承諾するしかなかった。

しかもバイクに病人を乗せるわけにもいかず。
イルネスにしてみれば乗せたくもなく。

仕方無しにレイズの家で一晩明かしたのだ。
感謝されこそすれこんな風に言われる筋合いはないだろう。とは彼の弁である。

―それにしても、

イルネスはアースのことを思い出す。

―あいつの瞳に、憎悪が見えたのは気のせいか?
普段の明るい印象が強いだけに言い知れぬ違和感が幽かな不安となって医者の心中をよぎった。

 


―…
アース・トパーズは父と二人暮らしだ。
といっても実の父親ではなく、義理の父親だったが。
よくある血縁関係有無のいざこざも無く、寧ろ普通の家庭よりも良好だといえた。
 
只、問題があるとすれば―尤も彼女はそれが問題だと思ったことはなかったが―
義父が彼女の両親を殺した一味の一人だった、ということだろうか。
義父は彼女が知っているということを知らない。
彼女はそのことを知っていた。
だが、顔も覚えていない両親よりも義父のほうが大事だった。

だから彼女は義父が隠しておきたい真実ならば黙っているつもりだった。

「なあ、アース。」
「なに?」
「いや、なんでもない。
 ……それより都市伝説をしっているか?」
「どんな?」
「死者を蘇らせる、いや、死者に己の命を与えるっていうはなしだ。」
「…そのひとはどんなカタチでも逢いたかったのかな?
 ひとの命を使ってもしなきゃいけないことがあったのかな?」

「……、そうだな……。」

義父が話してくれるまで待っていた。

その義父が殺された。
ある日外へ買い物へいって帰ってきたら死んでいた。
 
彼女はいつか義父が話していた都市伝説を切に願ったが、彼女はそのやり方をしらなかった。
だから、彼女は泣くしかできなかった。

         
「ウィスタリア・トパーズを殺したのはレイズ・クォーツよ?」

彼女がその事実を知ったのは彼女が既に彼に出会って随分時が過ぎていた。
赤の他人からもたらされたその情報は確かで、それでも彼女は彼を憎もうとは思わなかった。
憎め、なかった。

憎むには彼を知りすぎてしまっていた。愛してしまっていた。

自分でも数奇な運命だと、アースは思う。
大切なひとを大切なひとに奪われて。
だからこそ、憎しみや怨みはそこになく只悲しみだけがそこにある。

自然と彼女の足は彼の家へ向かっていた。

―…

 


レイズ・クォーツは人殺しだ。
それは彼自身が一番良く理解している。

一番、彼をそれに足らしめるのは、
都市伝説でも
その武器でも
『赫人』(その名)でもなく、

殺気を敏感に感じとり、殺気(それ)を異常な速さで摘み取る、
その、身体だ。

「―、え、」

視界が半分、赤に染まった。
状況判断が追いつかず、痛みだけが「斬られた」という事実を伝えていた。

コンマの世界で思考は「誰が」を考える一方、それよりも先に身体は「何処から」に反応し、その方へ、撃つ。
確実に息の根を止めるそのほうへ向けて。

―その、瞬間。
頭が「誰が」を認識した。

その先には、


「、アー…ス?」

愛しい、彼女の姿。

「―っ、」

咄嗟に銃口をずらす。

が、


―パンッ


爆ぜる、赤


からん、とナイフが彼女の手から床へと落ちる。

「アースっ。」


とめどなく溢れる赤。
かろうじて心臓は外れたが、血を流しすぎていた。
それが示すのはいのちの残量。

「レイ、ズ……?」

アースの元へレイズが寄るとアースは焦点が合わないまま顔を声の方へ向ける。

「ごめんね、」

「アース?」
アースの口から紡がれたのは、懺悔。

「たす…たかった。き、みを、」

―君を苦しめるすべてから


紡ぎきれない想いが溢れる。


―畢わらせてあげたかった。


 『こわして。』


あの日、苦しむ君の言葉は、辛すぎたから。

「ゆ、……―い、で。」

―ゆるさないで
―こんなに君を苦しめた私を。

視界が霞むのは血を流しすぎたからか、それとも頬を伝うもののせいか。
 
「―っ、」

震える手で、アースの手を掴む。
冷たくなっていくのが厭でもわかった。

「ねぇ、レイズ。」
「……なん、だ?」

 

「     。」

それは、綺麗な笑みだった。

あの日、レイズに向かって大丈夫だと告げたときのような。
いつもの、他愛ない話のなかで浮かべるような。


ことり、と腕のなかにある身体の力が抜けるのがわかった。
アース・トパーズは死んだ。
それでも彼女を彼は手放すことはしなかったのだが、


「……っあ、」

アース・トパーズが死んだ。
それを、レイズ・クォーツの頭が認識するのにはその事実は残酷すぎた。

「あ、あああああああああああっ」

彼に涙はなかった。
只管に、慟哭する。

それでも目の前の彼女が、
あかい色が、鉄錆のようなにおいが、
否応無く彼に事実を突きつける。

拒絶する。
拒絶する。
認めたくない。
けれど赫人としての彼は、その事実を何より早く受け止めて。

思考と身体が乖離する。

数分のうちに起こったその全てが突然すぎた。


熱に浮かされたように彼はふらふらと外へ出る。
彼女はあの場に横たえたまま。

 

外は雨が降っていた。
土砂降りでも小雨でもないその雨は只管に彼の身体を打ちつける。

彼女を殺したことも、彼女が死んだことも未だ、実感として湧いてこない。
そして、

「―っう」

激しい眩暈が彼を襲い、水溜りへとダイヴする。

彼もまた、彼女に殺されかけていた。という事実を彼は忘れていた。

血を流しすぎた身体は動かず、雨は無情に温度を奪っていく。


彼にも死は、確実に訪れていた。


「――?」

と、雨音が支配するなか、彼の耳に届いたのは、

「っは、―レ、クイ、…エム…?」

彼は音楽を嗜むほうではなかったが、その旋律は確かに鎮魂歌のものだった。


ぱしゃり。


新たな音に首だけ上に向ければ、

暗闇に浮かぶ銀色の髪とそれに映える赤いヘッドホンをつけた少女の姿。
少女らしからぬ雰囲気を纏ったその少女は傘も差さずにレイズを見下ろしていた。

その瞳に温度は無かった。

少女は静かに口を開く。

「貴方は、死ぬわ。」

「……ああ。」

「こわくないの?」

「どーだかな。」

浅い息と共に笑いを吐き出せば、少女は僅かに表情を歪めたがすぐに元の仏頂面に戻り、問うた。

「生きたい?」
「…、わかんね。」

「無責任なのね。」

「無責任で、結構。ほんとにわかんねー、よ。
これでも混乱してんだ。」

自虐にも似た笑みを深くする。少女はそれを気にすることもなく、言葉を紡ぐ。

「そう、なら理由をあげる。
――わたしの為に、いきて。」

「……、いいぜ。」

レイズはそれを承諾した。
それから、彼は

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「―ぅ?」

眼が覚めると自分の家で。

レイズは二、三度まばたきをする。

どう考えても見知った天井がそこにあった。
痛む身体を無理やり起こす。

「あれ、おれ―」
「しぶといじゃない。」

視界の端に現れたのは意識が沈む前、眼にした銀色。

「おまえ…?」

「わたしはルナ・エイジア。
 貴方の命の恩人。」

「は?」

確かにあの時、そんな話を―
と朧げに雨の日の会話を思い出すが、朦朧としていたときに自分が何を口走ったかなど覚えていない上、やはり話が突飛すぎてついていけない。
頭を捻るレイズにルナと名乗った少女はとどめの一言を放つ。

「あの日貴方は誓った。私のために生きると。」
「は?ちょっ、ま、」
「だから、せいぜい私を守ってね?赫人さん。」


そういって口元だけを笑みに歪めて少女は部屋を去っていった。

訪れる沈黙。

そして

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

絶叫。


これがレイズ・クォーツとルナ・エイジアの出会い。
それが出逢いとなるか出遭いとなるかは、
まだ、誰も知らない。



あとがき

はじまりのはなし。
とりあえず主要メンバー紹介しつつのプロローグでした。
時間軸はあえてごちゃごちゃにしてます。
―…
←これを境に時間軸が違います。多分。

無駄に付き合い長くて愛着ある作品なんで加筆修正する可能性が否めません。
そんときはaboutあたりで報告したいと思います。

というわけで13年6月5日に更に加筆修正しました。

読んでいただきありがとうございました!
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